《小ガラス・大がらす》

 

 

 

「大ガラス」と聞いて美術に造詣の深い人ならばすぐに美術家マルセル・デュシャンの作品を思い浮かべる事でしょう。デュシャンはそれまでの美術作品のように見た目の美しさ・技術の巧みさばかりを求めることをやめ、鑑賞を通じて思考することを促し、”気づき”や”発見”をもたらすことを目的とした数々の作品を制作し、それらはやがて現代の造形芸術の規範となりました。

 

 

 

 

1917年にデュシャンは「泉」と題する作品を発表し、物議を醸します。

その作品とは便器を横にして架空の人の名のサインを入れただけのものでした。
既製品や日常品といったモノに手を加えて、あるいは全く手を加えなくてもそのモノを置く場を変えることで新しい解釈や価値が発生することを提示し、手仕事としての美術から観念としての美術へと、その役割を転換したのです。

 

 

 

 

 

 

そんな美術史上の大事件から100年。

 

 

 

キクプロジェクトとM・Iによる今回の展示は現代美術の祖と言われるデュシャンを再検証しているようです。展示内容は常に変容し、終わりを見ることがないような試行錯誤の繰り返しは展覧会の在り方そのものの常識を問いかけているのかもしれませんね。

 

 

 

 

また今回の「大ガラス」には詩人エドガー・アラン・ポーによる「大鴉」の意も込められているのだそうです。
「何もない」と繰り返す鴉にデュシャン以前のポーの先見性を見出しているのでしょうか?

 

 

 

 

もちろん、両者の間には国や時代の隔たりがありますし、日本語ならではの韻の一致は当人たちの与り知らぬところなのですが、後世にそんな偶然を見つけ、さらに思考を深めて行く態度・試みが芸術の新たな切り口になって行くのかもしれません。

 

 

 

 

今日でこのユニークな展覧会も終了します。
ぜひ展示をご覧になり、作家と語らい、この「またとない」機会を楽しんでいただきたいと思います。

このブログを書いた人

川鍋 達
千葉県出身。美術を専門に学んだのち、ドイツに渡り、研鑽を重ねアーティストとして活動。国内外の展覧会に参加。帰国後、美術教員を経て地域おこし協力隊として須崎市に移住。経験を活かし、まちかどギャラリー運営のサポートに当たる。協力隊任期が終了後、引き続きまちかどギャラリー館長として企画・運営に従事。アートプロジェクト「現代地方譚 アーティスト・イン・レジデンス須崎」のディレクターを務める。