いま、高知県立美術館では一風変わった企画展が行われています。

 

 

 

 

高知県の風習として特徴的な「餅まき」をテーマにしたという、「高知サマープロジェクト2018 MΩCHISCRAMBLE モチΩスクランブル」

 

 

 

 

 

お祝いやお祭りの会場で人々が群がり、場合によっては殺気さえ感じられるあのあの餅まきが、美術館という普段はちょっと気取った佇まいの場所で行われています。

 

 

 

 

この展示を手掛けるアーティストユニットKOSUGE1-16は須崎でも富士ヶ浜に作品を展示してくれたのを覚えていますか ?

 

 

 

 

須崎の海岸で拾い集めた漂流物や瓦礫、あるいはゴミなどを浜に敷き詰め、そこに高知にゆかりのある物理学者であり、随筆家でもあった寺田寅彦が須崎逗留時に執筆した「嵐」を書き写し、登場人物である熊さんの足跡を現代に繋ぐ作品を作ってくれました。

 

 

 

 

その時の縁から今回の展覧会でも須崎の染物屋さんがフラフの制作に関わっています。

 

 

会期中も公開制作とし、アップデートを重ねた餅まきマシーン「RM-1Ω」が完成する最終日の92()にはなんと2,000個以上の餅を用意して餅まきが行われるそうです。行かねば!

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな風に周囲を巻き込む楽しい作品を全国で作り続けるKOSUGE1-16が関心を寄せるアーティスト、白川昌生さんとの対談がこの展示会期中に行われると聞き、便乗して須崎にもお招きできないかと考えました。

 

 

 

 

白川さんは80年代より群馬県を拠点に活動されており、近年全国に広がりを見せる、地域をキーワードに行われる芸術祭や、地域アートとも称される一連の動向とは一線を画す言説・制作を展開されています。

 

 

 

須崎市では『現代地方譚』というプロジェクトを2014年から続けています。 アーティスト主導で始まったこの取り組みは、”町おこし”という目的を持ちつつもそこにアート本来の役割が埋もれてしまわないように、何よりアーティストの真摯な取り組みや制作が一過性のイベントと同様の消費物とならないようにと注意が払われ、その甲斐あって小規模ながら県外から衆目を集めるプログラムとなりました。
その一方で地域内での関心、認知の偏りに対する課題や文化芸術活動の成果を数値化して示すことの難しさといったジレンマを抱えてもいます。 今回白川さんのお話を地元の人たち、行政の人たちと一緒に聴くことで、それぞれの立場から地域と芸術という事を再考するきっかけとなればと考えました。

 

 

 

 

トークは月曜日の日中にもかかわらず、予想よりも沢山の方々に参加していただきました。中には美術館で行われた対談と続けて参加された方もいらっしゃったようです。かくゆう私も両方聴講。

 

 

美術館では、KOSUGE1-16の展示に合わせて「贈与の文化と芸術」というテーマで対談が行われました。パプアニューギニアのトロブリアンド諸島でコミュニティを横断して行われているクラ交易という風習を例に、近代社会の貨幣経済に置き換えることの出来ない価値の付与が本来的なアートの起源であると言われていたように思いました。お金では決して買うことの出来ない、名誉とか誇り、思いやりでコミュニティを繋ぐもの。そう、まるで餅まきのようではありませんか!

 

 

 

 

 

そしてまちかどギャラリーでは白川さんのこれまでの活動の紹介を通じて地域と芸術を考えます。産業構造の変化によって利用価値を失った無人駅で行われたパフォーマンス、シャッター商店街で撮影された写真作品は経済優先の社会のあり方に疑念を呈し、そこを省みずに各地に勃興する地域アートの在り方に警鐘を鳴らしています。
一方、歴史を掘り下げ、イマジネーションも加えて新規に興した地域のお祭りやコミュニティラジオのプロジェクトは人びとと関わり、未来への持続性を孕んだ、示唆に富む取り組みに感じられました。
この2回のトークが、今後の高知のアートシーンに刺激をもたらしたら…。いいですよねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで先日ギャラリースタッフがブログで案内していた高知市の天神橋商店街でのグループ展「いづくんぞ魚の楽しむを知らん」についても少しだけご報告。

 

 

 

 

県内で活動する若いアーティスト2人の企画したこの展覧会も関係者ばかりの閉じた場から、もっと市井の人々の日常の中にアーティストとして絡んでいこうとするチャレンジでした。高知ではまだ馴染みの薄いこうした取り組みはきっと商店街の人たちにとってはハプニングだったと思います。今回はまだ一方的に迷惑をかけただけだったのかもしれませんが、徐々に浸透して共に行う何かが始まったらイイなと思います。

 

 

 

そして、須崎の「現代地方譚」は今年6回目を迎えます。間もなく作家さんのリサーチも始まりますよ。年明け1月の展覧会にご期待ください!

このブログを書いた人

川鍋 達
千葉県出身。美術を専門に学んだのち、ドイツに渡り、研鑽を重ねアーティストとして活動。国内外の展覧会に参加。帰国後、美術教員を経て地域おこし協力隊として須崎市に移住。経験を活かし、まちかどギャラリー運営のサポートに当たる。協力隊任期が終了後、引き続きまちかどギャラリー館長として企画・運営に従事。アートプロジェクト「現代地方譚 アーティスト・イン・レジデンス須崎」のディレクターを務める。