西村知巳の写真展「コミュニティーアート」の作品群は現在もまちかどギャラリーに展示されています。

 

 

当初3月14日〜4月5日に開催を予定していた本展は開始前より国内で広がりをみせていたウィルス感染症の影響を懸念し、開催の延期も検討していましたが、展示の意図に照らし、少しでも可能性があるうちは開催に向けて準備を進めたいという作家の意向を尊重し、市の主催イベント自粛期間が度々延長されて行く中、日程の調整を重ねて実施の機会を伺っておりました。結局4月半ばまでの自粛延長が決まり、当館の企画展としては公開が叶わなくなった時点で貸館利用に切替え、西村個人の意思で作品をこの場に置き続けています。

 

 

緊急事態宣言が全国に拡大され、高知県でも不要不急の外出は控えるべきとする状況にまでなった今、多くの方々に実際に展示をご覧いただくのは難しくなりましたが、「今だからこそ此処で」展示をし続けることにもまた意味があるようにも思います。

 

 

 

 

この企画は「まちかどギャラリー」と久通地域総合コミュニティセンター「凪の里」との2会場での開催を旨としていました。元小学校の敷地に建てられた集会所に集う住民たちがそこを「コミュニティ」と呼び習わす、その言葉に奇妙な齟齬を覚えた西村は、高知−須崎−久通、時折国外で撮影された写真やテキストも交え、多くの場合ポジティブな意図を含んで扱われるこの言葉の真意を尋ねています。

 

 

 

 

一本の峠道を超えなければ行き来ができない、周囲から隔絶された袋小路の小さな集落で住み続ける人々にとってのコミュニティ。それは他の多くの地域と同様に俯瞰的に外部から関わろうとする私たちがイメージしているそれと同じなのでしょうか。

 

 

 

 

 

3年に渡り徒歩で集落に通い、撮影を続ける西村は、近年の共同、連帯を謳い、地域政策にも利用される急ぎ足の「アート」に含有した一種の明るさに対照する、個と個との、あるいは個と地との関係性に迫ろうとしているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに重なった今回の事態は、私たちの社会が基盤としているコミュニティやアートの有り様を揺さぶりました。統一、統合に向かっていた世界は分断され、移動が制限されています。公立の美術館の多くは休館を余儀なくされています。それでも西村は安易な展示の延期や中止を望まず、同じ自治体に属するも異なる様相を見せるローカルの二つの地区の対比の中に、世界中を巻き込み価値の転換を迫るこの事象を反芻しようとしています。

 

 


 

 

 

久通での展示は地区住民のみに公開され、5日で終了しましたが、須崎での展示は休館の指示が出ない限りは26日まで続きます。

 

 

 

 

このブログを書いた人

川鍋 達
千葉県出身。美術を専門に学んだのち、ドイツに渡り、研鑽を重ねアーティストとして活動。国内外の展覧会に参加。帰国後、美術教員を経て地域おこし協力隊として須崎市に移住。経験を活かし、まちかどギャラリー運営のサポートに当たる。協力隊任期が終了後、引き続きまちかどギャラリー館長として企画・運営に従事。アートプロジェクト「現代地方譚 アーティスト・イン・レジデンス須崎」のディレクターを務める。