すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸で昨年行われた、ビキニ事件で被災した高知県の元漁師とその遺族へ取材を続ける映画作家、甫木元空さんの初個展が書籍となりました。
その刊行を記念して著者作品「その次の季節」の上映会、その後作中で扱われる詩人、大崎二郎について寄稿された廣江俊輔さんと甫木元さんとの対談が2月12日に行われました。
ちょうど高知県でも新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置が適用となるタイミングと重なり、どれくらいの方にお越しいただけるのか心配されましたが、当日はこのテーマに関心の高い方にお集まりいただき、それぞれが十分に感染予防に気を使いながら、無事に開催することができました。
映画の中で語られる、水爆実験の被害者やその家族の証言は強い訛りや不明瞭な発声によって聞き取れない場面が多々あります。状況を説明するナレーションも字幕も付かないので、その声を聞き取るにはかなりの集中力を要します。途中聞き逃したり、ついウトウトしてしまったりと、およそ70分にわたり淡々と続く証言をすべて理解することは難しく、不親切とも言えるその構成に戸惑う方も多かったのではないでしょうか。
その真意は上映後のトークで明かされます。
ビキニ事件に限らず、広島・長崎に投下された原子爆弾、福島での原発事故など、核被害についてのドキュメンタリーはこれまでも数多く制作されています。その多くは「被害」そのものに目を向けさせるものですが、この作品ではショッキングな核爆発の映像のかわりに使い込まれた道具や生活の空気感が写し込まれています。すぐそばに住んでいるおじいちゃんが自身の人生を語る様子をありのままに記録し、被害の周辺を含めることでこの事件が過ぎ去った出来事ではないこと、今も私たちの生活と地続きであることを強く意識させることに気づきます。
作品タイトルの引用元である詩集の作者、大崎二郎にも同様の多義的な視点からの創作の姿勢を感じ取った甫木元さんは、新聞紙上で高知の詩人たちを紹介していた中で大崎にも言及していた廣江さんを訪ね、二人の交流が始まったそうです。廣江さんからも作中で印象的に挿入される灯台のカットについて、「海を照らす役割の灯台の灯はまた陸をも照らしている」という指摘と、新聞記者だった時代のエピソードと共にアーティストとして社会に向き合うこととは、など興味深い話を伺うことができました。
甫木元さんは引き続き取材範囲を拡げ、バージョンを重ねながらこの出来事を次の世代に引き継いでいきたいと語ります。今後の活動にも期待が高まるトークイベントとなりました。
「その次の季節 高知県被爆者の肖像」は高知市内では高知蔦屋書店、金高堂各店、須崎市内では書肆織平庵にてお取り扱いしているほか、全国の書店にてご注文いただけます。
また、著者自筆サイン本をまちかどギャラリーで少部数販売しています。
書籍について詳細はこちら
https://tat-pub.stores.jp/items/61a73838ecd0573458555a57
このブログを書いた人
- 千葉県出身。美術を専門に学んだのち、ドイツに渡り、研鑽を重ねアーティストとして活動。国内外の展覧会に参加。帰国後、美術教員を経て地域おこし協力隊として須崎市に移住。経験を活かし、まちかどギャラリー運営のサポートに当たる。協力隊任期が終了後、引き続きまちかどギャラリー館長として企画・運営に従事。アートプロジェクト「現代地方譚 アーティスト・イン・レジデンス須崎」のディレクターを務める。
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